真夏の青空、さかさまにして

意を決して飲み口に口をつける。さっきまで冷蔵庫で冷やされていたのか、ひんやりとした感覚がくちびるに伝わる。


ここまではいい。となりを見れば真夏がゆるんだ表情を隠そうともせず僕を見つめている。

むかつくな、と思いながら瓶を勢いよくさかさまにする。すると、さかさまになった真夏の青空がころんころんと僕のところに落ちてきた。日差しを反射してキラキラと揺れる。


しゅわしゅわ、パチパチ。含んですぐに口のなかが刺激されて、僕は目を細めた。飲み口からくちびるを離す。



「ね、あずさ」



ね、というのは真夏の口癖だということに最近気づいた。はじけるようなその響きは炭酸みたいだけれど、案外心地よくて、僕はそれが嫌いではなかった。



「練習、引き受けてくれてありがとうね」



急になんだろうか。お礼を言われるほど練習という練習もまだしていなくて、僕は少し戸惑いながら返事をする。



「それは……引き受けろってしつこかったからでしょ」

「あはは、たしかにそーだっ」



大きく口を開けて笑って、でもそれからすぐに真夏はどこか切なげな声でぽつりと呟いた。でもありがとう、と。



「あずさに剣道を教えてもらいたかったのはね、もちろん剣道を通じてあずさのことを知りたかったからっていうのもあるんだよ。だけど本当はね、わたし、もうひとつずるい理由があるんだ」



僕は黙って真夏の言葉を聞いていた。ラムネのせいで、舌が痛かった。



「八月末に部内で試合があるんだ。三年生の先輩たちがいる最後の試合」
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