真夏の青空、さかさまにして
交じえる剣先
真夏がわかりやすく部活からしょぼくれて帰ってきたのは、筋トレをはじめてちょうど一週間目の昼ごろだった。
ただいま、の声に覇気がない。僕は十和子さんと昼食の準備をしている最中だった。
「あらー、部活でなにかあったのかしら」
豆腐を切る手を止めて、十和子さんが首を傾げる。親の目から見ても真夏に元気がないのはたしからしい。
「あずさくん、ちょっと真夏ちゃんのこと見てきてもらえないかしら」
「え、もうシャワー浴びてるんじゃないですか?」
「ううん、きっとすぐに道場に向かうと思うわ。もう行ってるんじゃないかしら」
道場に……?僕との練習をはじめるのはいつも昼食を取った一時間後くらいで、それまでまだ時間はある。なぜ今、道場に向かうんだろう。
半信半疑で道場に向かうと、十和子さんの言った通りそこには真夏がいた。
神前で黙祷をする背筋は凛と伸びていて、〝美しい〟という言葉がよく似合った。これだけ見ればまるで熟練者のそれのようだ。不思議と真夏にはそういう雰囲気がある。〝動〟よりも〝静〟を感じさせる美しさだ。
靴を脱いですのこに上るとぎしりと古びた音が鳴って、真夏の肩が小さく動いた。そしてゆっくりと僕を振り返る。
「……あずさ?どうしたの?」
「どうしたの、はこっちのセリフ。十和子さんが心配してたよ」
「あはは、それであずさが派遣されたんだ!ごめ……」
僕はぎょっとした。ごめん、と真夏が言い直すが、その瞳からはほろりと涙がこぼれている。