真夏の青空、さかさまにして
どうしてもなにも真夏がそんなに悔しがる理由がそれくらいしか見当たらない。だけど、あえてもう一つ理由をあげるなら……僕もその涙の意味を知っているような気がしたから。
「あのね……」
ゆっくりと真夏が話しはじめる。
聞けば、その〝勝ちたい人〟とやらはアヤちゃんというらしく、真夏と同時期に剣道をはじめたのだという。
初めこそどんぐりの背比べだった二人だが、練習を重ねる度に実力に差がつき、今じゃ真夏は手も足も出ない。しかもアヤちゃんは高校で部活一本に絞り、道場をやめてしまったらしい。代わりに余った時間は塾に行っているのだとか。
僕の胸がちくりと傷んだ。その傷みから目をそらして僕は思う。
真夏は馬鹿だ。さっさと諦めてしまえばいいのに、いつまでも必死にすがりついて。傷だらけなのにまだ立ち向かおうとする。本当に、真夏は正真正銘の馬鹿なんだ。
「やっぱりさ、楽しいだけっていうのは無理なんだよね。必死になればなるほど、楽しいって気持ちと同じくらいの悔しさがついてくるんだ」
こぼれた涙を隠すように拭って、「悔しいなあ……っ」と下手くそに笑う真夏があまりにも痛々しかった。
泣きやめ、なんてもう思わない。ただ涙を流した分だけ、傷ついた分だけ、真夏に強くなってほしい。立ち向かってほしい。そう思った。
勝手だけれど、もう立ち上がれなくなった弱虫の分まで。
ねえ、真夏。僕はやっぱり、その涙の意味を知っているから。
「……あずさ?」