真夏の青空、さかさまにして
真夏に背を向けて道場を出る。出てすぐ、下駄箱の上に大きいのや小さいのが一組になつって〝それ〟は干してある。僕はそのうちの一つを手に取った。
久しぶりに触れるその感触に、ぶわっと鳥肌が立つ。拒絶なのか、興奮なのか、よくわからない複雑な心境だった。
〝それ〟を持ってまた道場に入り、ぽかんと口を半開きにさせている真夏に近づく。その一歩一歩が重く、僕はめいっぱい足を踏ん張った。
間抜けな顔をして座る真夏の前にたどり着くと僕ははあ、と大きく一つ息を吐く。情けないことに、ここまで歩くだけで額にじわりと汗が浮かんでいる。
ぽたり、落ちる汗を見送って。そして、〝それ〟ーー〝防具袋〟をそのまま、真夏の目の前にどんっと勢いよく置いた。古い木の床が小さく震える。
「つけて」
「……え?」
「剣道、するよ」
やっぱり僕は真夏とは全然違うし、真夏の剣道に対する姿勢も考えも僕には理解しがたい。だけど、その涙の意味だけはわかるんだ。
その涙の意味がすることはーー。
「強くなりたいんでしょ」
ただ、それだけだ。
その瞬間、真夏の涙がぴたりと止まり、はっとしたように僕を向き直った。
まっすぐに刺さる、鋭い瞳。逸らしたくて、逸らさなくて、僕もまっすぐに見つめ返した。僕と真夏の視線がほどけないほど固く、交わり合う。
「強く、なりたい……!」
この瞳に応えたい。永遠のような一瞬のなかで、その想いだけが僕を支配した。