真夏の青空、さかさまにして
きゅ、と蝶をつくってから、解けないように二度ほど強く引っ張る。パンッ、パンッと紐を固く音は耳元で心地よくはじけて、心を落ち着けると同時に僕の気持ちを強く引き締めた。
「……よし」
メンをつけ終わるとこの言葉が漏れるのが僕の口癖だった。今でも変わらないことに少し驚く。
コテをつけたら左手に竹刀を持ち、立ち上がる。竹刀に触れることにも多少ためらったが、メンをつける時ほどではなかった。少しだけ、心が軽くなっていた。
ただやっぱりまだ防具が重く感じるのは、一年のブランクからなのか、それとも気持ちの問題なのか。いや、両方、なのかもしれない。
「……なに?」
真夏が遠慮なしに僕を見つめていることに気がついた。
無愛想に話しかけると真夏ははっと我に返るようにしてから、屈託なく笑った。僕は少しどきりとする。
「なんかやっぱり、様になるなって」
どこをどう見てそう思ったんだろうか。僕は一六七センチと、身長は高い方ではないし、がっしりとした体型でもない。オマケにこんな迷いだらけの気持ちで竹刀を手にしているというのに。
だけど真夏は嘘を吐けない。瞳が、常に正直なのだ。
……本当に、どうしてこんな僕が様になるなんて思ったのやら。
「ウォーミングアップは済んだ?」
「もちろん!」
「じゃあ……やるよ」
中心となる位置を決め、そこから大股で三歩ずつお互いに距離を取る。
場所につくと窓からは夏の木漏れ日がちかちかと入り込んで、向き合う僕らを無遠慮に突き刺した。