真夏の青空、さかさまにして
探しているのは、父さんの旧友だという山下忠(ただし)さんの家だ。
今日から九月までの一ヶ月と少し、つまり夏休みの間、僕はそこでお世話になることになっている。いわゆる居候というやつだ。
理由は父さんの海外出張。長期出張で一ヶ月ほど家を空けるので、信頼の置ける山下さんにぜひ息子を預かって欲しいと頼んだらしい。
父さんが心配してくれているのはわかるけれど、僕に相談なく勝手に決めてしまったのはどうかと思う。山下さんはあくまでも父さんの旧友であって、僕自身とは全く面識がない。
知らない人の家に一ヶ月以上もお世話になるくらいならばあちゃんの家に行くと一度は断ったが、おまえはばあちゃんが苦手だろうと却下されてしまった。たしかに、ばあちゃんと一ヶ月以上二人でいるのもきついなと思う。
「どこだよ山下家……」
山下家は駅から徒歩15分だと聞いていたのに、30分近く歩いた今も全くたどり着く気配がしないのはどういうことだろう。思わず声が漏れてしまった。
スマホに表示されたマップには、もうここが到着地点だと出ている。
だけどこの周辺をぐるりと歩いてみても、表札をひとつひとつ見て回っても、山下なんて表札は見当たらない。何がすぐにわかる、だ。そろそろ暑さで溶けてしまいそうだ。
あーあ、このバカでかい屋敷みたいなのが山下家だったらいいのに。そんなわけないだろうけど。
歩みを止めて、さっきからずっと僕の右手にある塀に手をつく。木でてきていて相当古そうに見えるが、男一人の体重を乗せても嫌な音ひとつ立てない立派な塀だ。