真夏の青空、さかさまにして
「あの、わたしに教えてくれてるようにしてくれればなって……」
おずおずと申し訳なさそうに言う真夏は、僕がその申し出を断ることをよーくわかっているはずだ。
「やだよ、絶対無理」
「いやわかってたんだけど、そこをなんとか!」
「わかってるなら頼まないで。どうしたって無理だから」
「そんなあ……」
当然だ。だいたい僕は一年もまともに剣道をしていないんだ。そんなやつに先生をしてほしいって剣道部全員どうかしてるんじゃないか。
「でも、もう……」
「なに、まさかもうオッケー出したとかじゃないよね」
「違うよ!さすがにそんなことはしないけど……」
「けど?」
急かすように言えば、真夏は視線をふよふよと泳がせて一切僕と目を合わさない。
「……みんな、乗り気で」
それは真夏が乗り気にさせるようなことを言ったからだろう。
はあ、と大きくため息を吐くと、真夏は「ね、お願い!」とダメ押しをしてくる。
頭を下げられて嫌な気はしない。でもやりたくないものはやりたくない。無理なものは無理。なにを言われたって無駄だ。
「わかった。じゃあ、見てるだけでいいから道場にいて!お願い!」
その場にさえいればアドバイスくらいはしてくれるだろうという真夏の魂胆が見え見えだ。
しかしもう一度断ろうとすれば、真夏は「じゃあ、よろしくね!」と僕の言葉を遮ってさっさと自分の部屋に逃げて行ってしまった。
……絶対に行くもんか。
合宿は二日後だ。