真夏の青空、さかさまにして
二日後、僕は道場にいた。……いや、道場に拉致されていた。
「ちょっと真夏!ずるいんだけど、こんなの!」
「あっはっは、すまんなあずさくん」
僕を俵持ちしながら高笑いしているこの大男は、さっき真夏に〝シュショー〟と呼ばれていた。……つまりは、そういうことだ。
「ねえあんた、ちょっと下ろしてください」
「下ろしたら逃げるだろう?」
「逃げるに決まってんだろ‼︎」
シュショーのとなりで真夏が下手くそな口笛を吹いて、僕と目を合わさないようにしている。助けろ!と叫びそうになったが、すべての元凶はコイツだ。
よっこらせ、と道場の隅に下されて、すぐさま逃げようとすれば、一年らしきちびっこい部員が僕の行く手を阻んだ。数秒にらみ合ってみたが、どうやら退く気はないらしい。
「わかったよ、見ればいいんだろ見れば‼︎」
ヤケクソの叫びに僕以外がわっと盛り上がった。真夏とシュショーなんかはものすごい身長差でハイタッチをしている。
「あの吉弘あずさに教えてもらえるなんてね」
「うわあ〜!すごい人なんですよね!」
「教えてもらうのが楽しみだなあ」
部員は真夏を合わせて六人と少なく、僕を知っている人も知らない人もいた。それでも全員が全員、口々に僕を褒めたし、全員が全員、僕が剣道を教えることを前提に話した。
「おい、僕は教えないからな」
「まあまあ座って座って」