真夏の青空、さかさまにして
真夏以外に女子がこの人しかいないということもあるけれど、もし他に女子がいたとしても、練習を見れば一目でこれが〝アヤちゃん〟だとわかったと思う。
まっすぐ伸びてぶれることのない背筋、軽やかに振り被られ、力強く振り下ろされる竹刀、思わず旗を上げてしまいたくなるような美しい残心。
「ィア────ッ」
そして独特の気合いには、これが自分の剣道なのだと自信に満ち溢れている。
この人は、上手い。
あの真夏がこれに勝ちたいと言うのか。……無理だ、一ヶ月なんかじゃ。そんな短い期間で足りるもんか。
もっと、もっと時間がいる。いや、時間があったって真夏がこの人に勝てるという確証はない。むしろ時間があればあるほど差が開くような気さえする。よくあの下手くそであれに勝ちたいだなんて言えたもんだ。
だけどもし、その不可能を可能にできたなら───なんとかして、真夏があの人から勝利を勝ち取れたなら。
想像すると、ぞわりと鳥肌が立った。
「真夏」
ちらちらと僕を盗み見ていた真夏に声をかけると、真夏はわかりやすくギクリとする。
……まったく、集中力が足りないんだ。真夏が苦手だという活字だらけの本を無理やりにでも読ませてやろうか。そうしたら少しは集中力がつくだろうか。
そんなことを思いながら、僕は腰を上げてゆっくりと真夏に近づいた。
「ドウは足で抜けて。まだ手で抜けようとしてる」
「えっ、あ、はいっ!」
「それから手を振り回しすぎ。ドウを打つときは左手がヘソの前で……」