真夏の青空、さかさまにして
目を輝かせながら真夏がうんうんと頷く。
真夏に教えてるのはいつものことなのに、何をそんなに嬉しそうにしているんだろう。怪訝に思っていると、「ずるい!」と声が上がった。
ちょうど真夏と組んで練習をしていた〝アヤちゃん〟だ。タレには中野と書いてある。
「私にもなにかアドバイスちょうだいよ」
「やだね」
間髪入れずに答えると、アヤちゃんこと中野サンは眉間にしわを寄せて不服そうな顔をする。
「なんでよ」
「なんでも」
「真夏だけ特別なの?」
ふふん、と煽るように笑われて若干カチンとくる。それで僕がいいよと言うとでも思っているのだろうか。逆効果だ。なにがなんでも教えたくなくなった。
「そうだよ、真夏は特別だ」
「えっ」
熱気と気合いが充満していた道場が一気にすっからかんになって、僕に注目が集まった。
いったいどういう意味合いでの〝特別〟だと思っているんだろう。僕たちの年代ってみんな、そういう話題への食いつきがすごい。ここの人たちもそうだったみたいだ。残念ながら彼らが期待しているような〝特別〟ではないけれど。
真夏だけはわかっているだろうと思って見れば、なぜか顔を真っ赤にさせてぽっかーんと口を開いていた。なんでだよとツッコミたくなる。あんたくらいはわかっていてほしいんだけど。
「真夏は特別。だって、中野サンに勝たなきゃいけないからね」
「は?真夏が私に?」