真夏の青空、さかさまにして
中野サンが本当に驚いたというように、切れ長の目を見開いてまーるくさせる。中野サンだけじゃなく、他の部員たちも同じような顔をしているだろう。メンをつけていてもなんとなくわかる。そういう雰囲気だ。
中野サンは部員たちにとっても〝強い人〟で、真夏は〝初心者よりはできる経験者〟という認識なのだろう。それがじんじんと伝わってくる。
とは言え、当の本人である真夏まで驚いた顔をしているのはなぜなのか。
「なに変な顔してんの、自分が言い出したことでしょ」
「いやだって、まさかこんなところで言うなんて」
「こんなところだからだよ」
本人を目の前に勝利宣言するくらいの気持ちじゃなきゃやってられない。この状況がわかっているのか。
「そっか、うん」
僕の言っていることを理解したのか、真夏が力強く頷く。
そうだよ、その調子で頑張ってくれなきゃ。そんな思いで真夏の頭をくしゃりと掻き回すと、となりで中野サンが首を傾げた。
「悪いけど私、負ける気しないよ?」
どうやら中野サンは遠慮とか気をつかうとかそういう言葉を知らないタイプの人間らしい。
いいじゃないか、負けん気が強くて悪役がよく似合う。僕の好きな人種だ。
「わたしだって、負けないよ」
意外だ。真夏が言い返した。
「でも真夏、一度も私に勝ったことないよね」
「そうだけど、でも……次こそは勝ちたいんだもん」
「勝ってみたいだけじゃ勝てないよ」
その通りだ。想像以上に真夏が口喧嘩に弱くて呆れてしまう。そうだそうだ、と中野サンの味方をしてしまいそうでもう見ていられない。