真夏の青空、さかさまにして
中もさぞかし素晴らしいんだろうな。歩いても歩いてもこの家の塀が続いてるんだから。
うちもそこそこいい家だとは思うけれど何たってまだ新築だし、ここまで大きくもない。中の構造がどうなっているのかはわからないけれど、外から見ただけならこの屋敷には場所の心配なんて一切することなく車なんかを何台も留めておけそうだ。それもいちいち高級の。
こんな家に住んでいるのは山下じゃなくて、西園寺だとか道明寺だとかよくわからん名字の人間だろう。
もう半分諦めている。この暑いなか大荷物を持って、30分も歩いて探し回ったんだ。僕にしては随分と頑張った。ゴールできる気配もないのにこれ以上歩き続けるのはごめんだし、父さんに電話して、心底嫌だけどばあちゃんの家に行こう。
しかし今すぐに電話してしまったら父さんに八つ当たりしてしまう気がした僕は、塀の細長い影に隠れて少しの間休憩を取ることにした。ふう、とため息に近いものがこぼれる。
じーわじわじわ。蝉の悲鳴がやけに耳にまとわりつく。ああ、うるさい、うるさい、鬱陶しい。これだから夏は嫌なんだ。
そんな膨れ上がる苛立ちのなかに、ころんと鈴の音が落ちた。
「吉弘、あずさくん?」
いつの間にか地面を向いていた顔を反射的に上げる。誰もいないと思っていたのに唐突に聞き慣れた名前が呼ばれたものだから、僕は驚いて、はい、と返事をしてしまう。
でもそのぎこちない声は、僕を呼んでいたというよりは、僕が吉弘あずさという人間かどうかを確かめただけだったらしい。
僕がもと来た道、透きとおるような青と夏を象徴する大きな白を背景に、セーラー服の少女が立っていた。
一枚の夏の画のような現実味のない光景。
僕はわずかに目を細める。