真夏の青空、さかさまにして
……誰だ?
僕はその少女を知らなかったし、立ち尽くす彼女もまた、僕の声が届かなかったのか、まだ僕を吉弘あずさだと確信を持てないでいるみたいだった。
だけど彼女が着ているセーラー服には見覚えがあった。白いセーラーに紺のスカートは一般的なセーラーの制服と変わりないが、スカーフが赤ではなく緑なのが特徴的で、たしか、青葉西高校の制服だったと思う。
この辺りでは制服がセーラーの高校は珍しくて、セーラー服に憧れる中学生の従姉妹が、絶対に青葉西に行くのだと意気揚々と言っていた気がする。
となれば彼女は僕と同い年か、僕よりも一つか二つ年上らしい。
驚きだ。華奢というよりもただ単に小柄な背格好で、まるだけで似顔絵を書けそうな童顔。肩にかかるくらいの黒髪はくせ毛なのかふわふわとあちこち跳ねていて、垢抜けてるとは言い難い。どう見たって年下だろう。
「よ、よよ吉弘あずさくんだよね⁉︎」
「……そうだけど」
何にパニックしているのか、手に持っていた茶色い革鞄を落として、滑り落ちた中身と僕を交互に見ながら「あっ、わっ」と言葉にならない言葉を発している。僕はそれを、変な子だなと思いながらじっと見つめていた。
「ご、ごめんなさい! えっと、あの、心構えはしてたんだけどまさかここで会えるなんて……あ、でも噂通りの綺麗な人でもしかしてって思って、あの、えっと」
すべて拾い終わった彼女がすうっと大きく深呼吸をしてから、改めてというように僕にもう一度話しかけてきたが、目は泳いでいるし出てくる言葉がすべてたどたどしい。どうやら深呼吸は意味がなかったみたいだ。
「ごめん、まったく話が見えないんだけど」