私に優しい理由

私があなたを育て始めた頃、あなたはまだ私が肉眼で見ることのできないほどの、小さな小さな種でした。

声も出せない。

身動きもとれない。

何が咲くかも分からない。

そんな小さな種でした。


花なのでしょうか。

木なのでしょうか。

別にどちらでもよいのです。

あなたが華やかであればそれで。


しかし残念でした。

あなたは花でもなく、木でもなく、ましてや華やかでもありませんでした。

小さな種から生まれたものは、私の期待などはるかに無視した、歪な種でした。


しかし、私にはどうにもその種を捨てることは出来ません。

なぜなら、今まで夢を膨らませ大切に育ててきた、私の愛ある種なのです。

生まれたものが華やかでなくても、私が愛を与えてきた種なのです。

私はあなたが種でもよいと思いました。

また育て、また愛を与え。

周りの鉢よりは遅いかもしれませんが、ゆっくり、そのぶん多くの愛を与え、時間をかけてでも華やかになっていってくれればよいと。

そう考えたのです。

今が歪であろうが、最終的に華やかであればと。


しかし、どんなに愛を与え、どれだけ苦労をして育てても、あなたが華やかになる様子などは見られず、それどころか、日に増してあなたはどんどんとその形を歪へと変えていくではありませんか。


そんなあなたを治す者などはもちろん、あなたを華やかにする方法を知っている者さえも、私の近くにはいませんでした。

当然、医者なども頼りになるわけもなく、今更ながらに‘かかりつけ医’というものの無意味さを知りました。


私はあなたがどうやったら華やかになれるのか。

どうしたら華やかであれるのか。


それだけを求め、追求し、探索をし続けました。


あなたを見守り、あなたに問いかけ、時にはあなたを力ずくで華やかにさせようともしました。


しかし、そんな私の努力も実らず、あなたは私を嘲笑うかのようにその形をどんどんと歪へと変えていきます。

何故でしょう。

何故なのでしょう。

私にはどうしても理解が出来ません。

周りはあんなにものうのうと過ごし、あんなにもらくらくと育てているではありませんか。

私と周りとでは、一体なんの違いがあるというのでしょうか。

私の育て方には、何かが足りなかったのでしょうか。


そんな事は、いくら考えても一向に分かる気配などは当然なく、それどころか、考えれば考えるほどに混乱し、私の頭は悲鳴をあげ、もうお手上げ状態でした。


こんな生活を続ければ、いつか私は狂ってしまう。
そう思い始めていました。
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