私に優しい理由
やっと荷下ろしが終わり、キッチンやらリビングやら寝室やらの「部屋」らしきものができてきました。

一息つける。

そう思ったのも束の間。


私の視界に入ってきたのは、やはりあなたでした。

安堵感が一瞬で疲労感に塗り替えられてしまったのです。

別に、あなたが泣きわめいたり、暴れ回ったりしていたわけではありません。
ただそこにいたのです。

泣かず、喚かず、動かず。

ただそこにいただけなのです。


それが私の疲労と変わり、蓄えられていきました。


そんな時、チャイムが鳴りました。
ふと、我に返った自分を覚えています。

玄関のドアを開けると、隣のヤナギさんでした。今日は1人で。

ヤナギさんを招き入れ、片付いたリビングのソファーへと腰掛けるよう、促したところです。


少し考えました。

もしヤナギさんがこのタイミングに来なかったら。



…あの時、私は何をしていたのでしょうか。
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