こっち向いて笑って、先輩!
スラっと長い身長とその綺麗な顔は、周りの空気さえもガラッと変えた。
「き、き…」
ダメだ!
思わず声に出そうになって飲み込む。
話さないって約束したもん!
「痛いよ和那!ね、見て。お前のストーカーちゃんの桃ちゃん。今日よく見るよね〜。あ、いつも見てるか」
そう。いつもは私が近づいてるからかならず1日に3回は顔を合わせる。
だけど、今日は違う。
偶然に会いたい時は絶対会えないのに。
よりによって、先輩と約束した時に限って…。
「女子なら誰にでも声かけるんじゃねーよ。みっともねー」
っ?!
如月先輩の口が動いてる…なんて見つめていたら目が合ってしまった。
やばい。溶けてしまう。
「あ、えっと、し、失礼しますっ!飯田行くよ!」
「は、ちょっ」
約束の1つも守れない女だと思われたら、それこそ先輩に幻滅されちゃう。
先輩が好きだから、我慢するんだ。
私は飯田の腕を捕まえてから、3年棟を後にした。
「変わってるねあの子。あんな約束必死で守ろうとしてるとか、結構本気じゃん?和那のこと」
野村先輩のそんな声はもちろん、私の耳には届かなかった。