こっち向いて笑って、先輩!
*
「えっ、茜さんに?」
「うん。あ、無理にとは言わないよ。こういうのは嫌だって人もいると思うし。ただ、来原にはちゃんと知ってて欲しいっていうか」
学校を出た帰り道、時刻はとっくに6時をすぎていてあたりは真っ暗。
先輩が繋いでいる手の力を少しだけ強めてから「茜に、会って見る?」と言い出した。
「はいっ。会ってみたいです。茜さんに」
私がそういうと、 先輩は「ありがとう」と優しく微笑んだ。こんなに近くで先輩の笑顔が見られるという幸せが今こうやって実現しているんだ。
私が知らない、中学生の如月先輩を知ってる茜さん。全く知らないところに足を踏み入れるのは少し怖いけれど。今は隣に先輩がいる。大丈夫だ。
1週間ほど前からアメリカから帰ってきてる茜さんが、明日、中学の頃の友達とこっちに遊びに来ることが決まっているらしい。
みんなに私を紹介するついでに、茜さんにも、と。
「茜にも自慢されたから。仕返し。なんてね」
「……っ?」
先輩のセリフにはてなを浮かべたまま、私たちは手をしっかり繋いで、お互いの温もりを感じたまま歩いた。