コソ恋 ~マセテイルと言われても構わない
6 となり
 六ヶ月後が経った頃、神谷先生が、退院すると聞いた。

 学校帰りに、病院の殺風景な玄関に行った。

 もう、十一月で、私は冬休みのスキー旅行を楽しみにしていたから、びっくりだ。

 神谷先生は、松葉杖をついていた。

 肩を並べて、白いワンピースの恋人らしき美しい女性がいた。
 多分、ずっと付き添って、看病したに違いない。

 私が求めてやまなかった立ち位置だ。

「おー。ギプス要るか?」

 ドスンと重い割れたギプスに、涙が出そうになった。

 礼音が会いに行く事もできなかったのに、ギプスを見て、礼音を忘れないでいてくれたのが分かった。

 『ケソ=特別な』

 そう、マジックで書いてあった。

 いつも私をケソ生徒と職員室前で呼んだ神谷先生……。

「先生……。ええ、私、ケソ生徒で十分です。恋人から奪う事ができません……」

 ぽろろと雫が頬を伝った。

「ケソ生徒です……」

「マセテイルと言われても構わない。だから、お願いが……」

「何か、言いたい事があるのか?」

 礼音は、俯いて恥ずかしそうであった。
「一度だけ、あ、頭ぽんぽんしてください……」

 ……。

 ぽんぽん。

「心に残りました。ありがとうございます」

 恋人さんから、白いレースのハンカチを差し出された。

 恋人がいたなら仕方がない。
 こんなに優しそうな方だ。
 神谷先生ともお似合いに見えて来た。
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