【超短編 21】彼女の髪が長いわけ
小原は彼女の傷のことを考えた。
耳の付け根の少し下辺りから3センチ以上の長さもある深い傷をどうやったら付けることができるのだろう。
小原は彼女を愛撫している途中に彼女の首筋を爪で思い切り引掻いた。一本の赤い筋ができてその後、じんわりと血が滲んできた。痛いかどうか聞くと彼女は無表情に首を振った。もう一度同じところに爪を立てると少しだけ皮膚が切れて、一ヶ所から水滴のような血が膨らんだ。
彼女は無表情なままだった。
腹が立った小原はベットの引き出しの中からナイフを取り出した。中学生のときに友達と一緒に買ったバタフライナイフだ。手に入れたばかりの頃はいつもポケットかバックの中にしまい込んでいたが、ただ粋がりたかっただけで一向に使う機会がなく、受験が始まると同時に持ち歩くこともやめてしまっていた。それまでに切ったものは学校で配られた何枚かのプリント用紙と発泡スチロールだけだった。彼はナイフの刃を彼女の首筋にゆっくりと当て今まで付けた線に沿って引いた。
「ありがとうございました」
書き終わったアンケート用紙をボードの一番下に挟みこみ、女が頭を下げた。
小原の位置からもう一度その傷を見ることは出来なかった。そのまま女はまた別の人間に声をかけるため駅のほうに戻っていった。
自動販売機にナイフが売っていればいい、と小原は思った。
耳の付け根の少し下辺りから3センチ以上の長さもある深い傷をどうやったら付けることができるのだろう。
小原は彼女を愛撫している途中に彼女の首筋を爪で思い切り引掻いた。一本の赤い筋ができてその後、じんわりと血が滲んできた。痛いかどうか聞くと彼女は無表情に首を振った。もう一度同じところに爪を立てると少しだけ皮膚が切れて、一ヶ所から水滴のような血が膨らんだ。
彼女は無表情なままだった。
腹が立った小原はベットの引き出しの中からナイフを取り出した。中学生のときに友達と一緒に買ったバタフライナイフだ。手に入れたばかりの頃はいつもポケットかバックの中にしまい込んでいたが、ただ粋がりたかっただけで一向に使う機会がなく、受験が始まると同時に持ち歩くこともやめてしまっていた。それまでに切ったものは学校で配られた何枚かのプリント用紙と発泡スチロールだけだった。彼はナイフの刃を彼女の首筋にゆっくりと当て今まで付けた線に沿って引いた。
「ありがとうございました」
書き終わったアンケート用紙をボードの一番下に挟みこみ、女が頭を下げた。
小原の位置からもう一度その傷を見ることは出来なかった。そのまま女はまた別の人間に声をかけるため駅のほうに戻っていった。
自動販売機にナイフが売っていればいい、と小原は思った。