どんな君でも愛してる。


「いただきまーす!!」

向かったのは多目的教室。
梶先生に空いている教室がないかと訪ねた際、この教室が人気が無いと教えてくれたらしい。

「ちーちゃんはお弁当??」
「そ!かーちゃんが毎朝作ってくれんの。」
「柚ちゃんも??」
「あたしは自分で作ったわ。母は仕事で忙しいの。」
「そーゆーまるちゃんは?!」
「えと……」

弾んでいた会話が、急に止まった。
隣に座る真冬の表情は、長い髪で隠れて見えない。
どうしたんだろう…

「……従兄弟のお兄ちゃんが作ってくれた!…ひろは!?」

急に話を振られたから、卵焼きを落としそうになる。

「…俺は自分で作る派。時々兄貴が作ってくれるけど。」
「お兄ちゃんいるんだー?」
「あぁ。兄貴は裕兄と幼なじみなんだよ」

今、完全に何か隠したよなー…
いつも笑顔で誰にでも心開きそうなのに、突然壁ができるっていうか…

「くまさんは…おにぎりだ!。」
「千暖のお母さん、おにぎり世界一」
「ちーのお母さんが作ってるの?」
「…」

コクリと頷く祐信。

「祐信はうちの家に住んでんだよー。祐信、養子ではなんだけどちっちゃい頃にな、かーちゃんの友人から預かってそっからうちら市川家の家族みたいなもんや!」
「へぇー!!」

口数の少ない祐信に変わって、千暖が説明をした。

このメンバーはなんだかんだで、悩みを抱えて生きている。

祐信は、幼い頃市川家に預けられたまま、本当の親に会うことができていない。
口数が少ないことからわかるようの、意思表示が難しいことから親に対する気持ちはわからない。

莉菜には両親は離婚。
母方に引き取られたものの、遊び放題の母は家に毎晩男を連れ込んでいる。
その男が面倒で、莉菜に暴力を振るうこともあるそうだ。
最近は千暖の家に逃げ込んでいる。

千暖は見た目のせいから、不良だと勘違いされ、よく上級生や部活の先輩などのタチの悪い連中とつるむことが多かった。
お酒やタバコをやっていた時期もあるが、祐信のおかげで今はやっていない。
ケンカを買う性格だったが、今は良くなっている。

俺は……両親を亡くしたショックで、記憶がない。
当時高校生だった兄貴はバイトを始め、大学に進学。
その後は塾の講師や家庭教師、ビラ配りなどのバイトを掛け持ちしながら生活。
家族で住んでいた家に2人で暮らしている。
どうも両親が大金を残してくれたらしいから、普通の暮らしが出来ているが、そのお金があとどのくらいあるのかとかはよく知らない。

もしかしたら、真冬も何か抱えていえうのかもしれない。


「あ!!卵焼き美味しそう!1口ちょーだい!!」
「これか?」
「うん!」
「とってけ」
「ありがとうー!!いただきまぁーす!!」

俺の卵焼きを取った真冬は、幸せそうに食べる。
こんなに幸せそうな奴、見たことない。
さぞかし…幸せなんだろうな。

「おいしぃー!いい甘さだぁー!!」

悩みなんかなさそうだ。



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