私と結婚してください。
「ん、もっかい投げて」
「えっ…」
って言われてもなぁ…
入る自信なんてないんだけど…
「ここ、意識して」
「…え?」
気がつけば、竜司くんは後ろにいて、私の腰に手を当てた。
本当に優しく、添えるだけ。
「芯がぶれなきゃ入る。
ここを動かさずに、試しに投げてみて?
足のバネ、ボールの持ち方、手首の使い方はバッチリだから、縦さえぶれなきゃ絶対入るよ」
そういって、竜司くんは手を離して一歩下がった。
腰を動かさず、縦ラインを動かさず
ただそれだけを意識して投げたポールは
"ポスッ"と音を鳴らしてネットから落ちた。
「ほら、入るじゃん」
「で、でもまぐれかも…!!」
「なら、……もっかい投げてみて?」
こちらに転がったボールを、竜司くんはまた私へと渡してきた。
そんな簡単に入るものかと、もう一度投げてみると、またボールはリングをくぐっていった。
「ね?だから言ったじゃん」
「…すごい」
「え?」
「竜司くんすごいね!
こんな的確なアドバイスもらったの、初めてだよ!」
転がったボールを拾い、また投げてみるとやっぱり入る。
こんなにも入るものかと、疑いたくなるくらいポールがリングへと吸い込まれていく。
「希依ちゃんのプレイ見ててさ、足も手首も柔らかくて、体幹もしっかり備わってるのに
いつも慌ててるからもったいないなって思ってたんだ。
試合中でも一瞬落ち着けば、絶対に入るよ」
「うん!ありがと!」
……とは言え、そもそもボールに触ることすらできなかった私に、勝ち目はあるだろうか。
まずはそこだよね…
「…よし、体育館戻ろっか」
「あ、うん」
優しくポンと背中を叩かれ、私は竜司くんと一緒に体育館へと足を進めた。
「竜司くんさ、私は敵チームなのにどうして私にアドバイスしてくれたの?」
「ん?だって俺やっぱ希依ちゃんのこと好きだし、笑っててほしいから」
そんなことを、優しい笑顔で私に伝えてくる竜司くんに、私の体温は一気に上昇した。
「な、ななっ…!?」
「え、もしかして俺が希依ちゃんのこと好きだっていったこと、忘れてたなんて言わないよね?」
「わ、忘れてはない、けど…」
「俺、超本気だからね」
そういって、竜司くんは一足先に体育館へと入った。
落ち着け、落ち着け、と自分に自分で言い聞かせて私も体育館へと入ると
「先生~!パートナー交換する~!」
竜司くんが、そう叫んでいた。