私と結婚してください。
ちょうどチャイムが鳴り、音楽の授業も今日はこれで終わりだ。
「よし、楽器はそのままでいいから教室に戻れ。
どうせ他に使う人もここにはいないからな」
「はーい」
そっか、ここは神楽専用だもんな…
神楽専用なのに、ずいぶんといいバイオリンを置いているんだな。
…いや、神楽だから置いているのか?
そのわりにピアノは電子ピアノだけど…
「行こ、希依ちゃん」
「うん」
一通り後片付けをして部屋を出ると、ちょうど隣の部屋からもめぐが出てきた。
「希依~~!」
「えっ、なに、どうしたの」
「楽譜読めないんだけど!」
「・・・はい?」
「譜面に音階書ききれないんだけど!
絶望しか感じない!!」
……そういえば、めぐ中等部の時も音楽祭の度に私に譜面に音階書いてくれって言ってきてたっけ…
まぁめぐはずっとバスケしかやってこなかったからなぁ…
「…凰成はどうしてんの?」
「俺も読めねぇ」
・・・おいおい、まじかよ。
このペア、絶望的だな…
「だーからさっさと練習しとけばよかったのに!」
そういって凰成を貶しながら伊織くんが向こうから歩いてきた。
「うるせぇよ」
「っていうか音符読めないとか練習以前の問題だしね…」
「希依、俺の譜面に音階かけよ」
「ちょい、凰成ー!
希依ちゃんは仮でも今俺の姫なんだけどー!」
「希依!私のはやってくれるよね!?友達だよね!?」
「え、まぁ私はいいけど…」
それよりも覚えた方がいいんじゃないかなぁ…
ピアノじゃ何オクターブも違う時あるのに…
「あーもー、私本当絶望なんだけど…」
「ちょっとめぐちゃん?めぐちゃんの成績は俺の成績なんだから、頑張ってよ?」
「うるさいわ!頑張るけど限界あるわ!」
っていうか、こんなことで騒いでるのは本当にこの2人だけ。
私や頼くん含め、他の神楽の人たちも音符が読めないとかそんなことで騒いでる人は誰もいない。
まぁ、みんな教養ある家庭で育ってるんだもんな…
凰成なんかは放任されて育ったからできなくて当然なのか…
「それでは吉良さんと西島さんは放課後等自主練が必要そうですね」
「はぁ…まさかここにきてこんなことでつまづくなんて…」
頼くんのこの苦笑い、私以外に向けられるのは珍しいなぁ。
いっつも私だけが頼くんを困らせてたしな。……あ、伊織くんもだ。
「自主練はここ使えるの?」
「はい、18時まででしたら使えますよ」
ふぅん、そうなんだ。
じゃあ私もやろっかなぁ
「……希依ちゃんもやる?」
「ん?うん
私ってもともと音楽好きだから、できたらやりたいなって。
ま、竜司くん次第なんだけどさ」
「いいよ、希依ちゃんがやりたいなら俺もやる」
「いいよなぁ、希依は…
音楽得意だもんね…」
「でもさっき先生にまだまだだって言われたばっかりだよ。
だから私もまだまだ練習必須だよ。お互いがんばろ!」
「私は絶望しかないよ…」