私と結婚してください。
そのまま、なぜかあるエレベーターに乗って地下へと降り、それからながーーい廊下を歩く。
どうしてこんなにも広いんだ。移動が面倒じゃないか。
何個もの同じドアが並ぶ中、凰成はひとつのドアの前に立ち止まった。
「…ここが凰成の部屋?」
「は?そうだけど。
前来てんのに忘れたのかよ」
「っていうかこんなにドアが並んでるのによく覚えられるよね…」
「普通自分の家の中は把握しとくだろ」
そういって、部屋の鍵を開け、ドアも開けてくれた。
わざわざ持っててくれるんだよ。ドアを。あの凰成が。
本当、よくもまぁここまで成長しましたよね…
「お邪魔します…」
「はいはい
適当に座って」
何個もおかれているテーブル&チェアと、そこにドーーンと置かれているひとつの大きなソファ。
こんなに必要ですかねぇ。
とりあえずソファに座っとくか…
なんて、私がソファに座る頃には凰成はあそこのドアからどっか行ってて、
そんなことしてる間に私の想像通りの執事さんが紅茶を持ってきた。
「適当に置いといてー」
そんな凰成の声が、ドアの向こうから聞こえる。
…かと思えば、凰成はドアから顔を出した。
「希依、こっち」
「ん?」
手招きされ、紅茶を淹れてくれている執事さんも置き去りに私もドアへと向かう。
「え、なにここ」
「レッスン部屋的な」
てっきり私はウォークインクローゼット的なところかと思っていたけど…それは完全に私の思い込みだったようで
ここは吉良邸。常識は通用しないところ。
かなり広い凰成のとなりに、それよりも広い部屋が備わっていた。
「レッスン…?」
「音楽系から運動系まで、ここでやってた」
「へぇ…凰成も習い事やってたんだね」
「つっても昔の話で、途中から俺がいやになってほとんど辞めたんだけど」
……ですよね。
凰成の親ってかなり放任らしいし…
「あ、これがバイオリン?」
「そう」
部屋のすみに、バイオリンケースらしきものがあって、私はそこに足を運ぶ。
「バイオリンは習ってなかったの?」
「つまんなくて即辞めた」
・・・本当わがまま…
こいつはなにやっても長続きしなさそうだもんな
「凰成って、ハマってやってたのバスケだけ?」
「あー、そうだな
俺って飽きっぽいし」
「飽きっぽいにもほどがあるでしょ」
さぁ、さっそくやりましょうってことで
私はバイオリンに手をのばす。
ケースを開けてみる、けど…
それは私も生まれて初めて見るもので
「ストラディヴァリウス!?」
世界的に超有名で、とっても高価なバイオリンの名器だった。