私と結婚してください。
なるほどなぁ…
いるよなぁ、こういう人…
「ったく、何で今年に限ってバイオリンなんだよ」
「去年はなんだったの?」
「去年はギター」
「え、てことは凰成ギターは出来んの?」
「は?いや別に」
・・・あ、そうですか。
「…にしても本当に猫に小判、豚に真珠だね」
「……だいたい、こんなんできたからって
別に将来関係ねぇだろ」
「そんなことないよ。
バイオリンは繊細な楽器。左手の細かな動きと右手の僅かな力加減と動きでいろんな音を表現できる楽器。
そして演奏を続けるために必要な体幹。
それらを操ることができる人しか、バイオリンは綺麗に演奏できない。
逆に、それもできない不器用さんは大人になってからもつまずく事が多いんじゃない?」
そう、バイオリンが弾けることが重要なんじゃない。
その器用さや表現力を備えること、備えるために努力することができること
それが大事なんだ。
それを表現するための方法のひとつとして、バイオリンがあるだけで
本当はスポーツだって、勉強だって、結局その忍耐力をつけるためにあるような物なんだ。
「…プロになるわけじゃないんだから
もっと、楽しまないと」
私はそういって、凰成の手からバイオリンを奪った。
これに限らず、楽器は音を楽しむものだ。
音楽とはそういうものなんだ。
私は一度姿勢をただし、一呼吸置いてから
バイオリンを構えた。