私と結婚してください。
とりあえず私はお手洗いへと行き、おばさんには先に戻ってもらった。
大丈夫、大丈夫。
だって、凰成の彼女は私だもん。
大丈夫。
私は凰成からもらった、プレスレットを握りしめ、おばさんから借りている指輪を見つめて、息をひとつ吐いた。
負けてたまるか。
私は私なりに頑張ってみるよ。
「なにそれ、意気込み?」
目をつぶって気合を入れていたら、後ろからまた一華さんの声が聞こえて、振り向いた。
「…なにか用ですか?」
「ここには用を足しにきてるんだから当たり前でしょ」
あ、そうか…
そりゃそうだよね…
「それより貴方、本気で凰成とくっつこうとしてるわけ?」
「…悪いですか?」
「そうね。
あなたみたいな人が凰成と婚約、結婚でもしようものなら、吉良家の恥さらしになるだけだわ」
「…それは、私が一般階級の人間だからですか?
ただの庶民だからですか?」
「そうよ」
私の問いに、一華さんは間髪入れずにそう答えた。
「あなたみたいな世間知らずがいると、あなただけではなく、凰成や
吉良家そのものが恥をかくことになるの」
「で、でも凰成のお母さんだって一般の…」
「あの人だって、この世界に馴染んでるわけではないわ」
「え…?」
「…確かに、馴染もうとしてるのわかるけど
でも、そんな簡単なものじゃないわ。
あの人の考え方が庶民すぎて、こっちの世界の笑われ者になってること、あなた知らないでしょ」
「…そんなの、別にどうだっていい」
「はい?」
「私は吉良家のために凰成と付き合ってるわけじゃありません。
凰成のことが好きで、それで凰成も私のことを好きでいてくれてる。
それだけのことです。
たったそれだけのことを、凰成のご両親が認めてくれている。
たったそれだけのことです。
あなたは先ほどから吉良家、吉良家と
凰成のことなど、なにも見てはいないでないですか」
きっと、凰成のお母さんだってそうなんだ。
凰成のお父さんだってそうなんだ。
会社のためでもなくて
これまでの吉良家の歴史のためでもなくて
ただ、一緒にいたい人とそばにいる
それだけなんだよ