私と結婚してください。
「…っ、だから
それが庶民の考えだって言ってるのよ!」
「では、セレブの考え方はなんなんですか?
恋愛せずに、会社の利益のことや家系の歴史のこと、未来のことだけを考えて相手を選び、結婚するのが正しいことなのですか?」
私がそういうと、一華さんは言葉を飲み、歯を食いしばった。
「もしそれがセレブの考え方なら
あなたは、そうとう寂しい人間です」
私はそういって、トイレを出た。
セレブの考え方なんて私にはわからない。
この世界がどういうものか、私は知らない。
でも、誰かを好きになって、その人が私を好きになるって
それがどれほど奇跡的な確率だと思っているんだろう。
その結びを無理やりほどこうとしたら絶対、どこかで歯車は狂ってしまうよ。
私が会場に戻ると、会場内はすごくざわざわしていた。
「ちょっと待ちなさいよ!」
そう言いながら私を追いかけてくる一華さんも、この異変には気づいたみたいで、一瞬にして静かになった。
「あ、伊織くん
どうしたの?なんの騒ぎ?」
「あ、希依ちゃん!
それが、演奏してたバイオリンの人が急に倒れたみたいで…
今別室に運ばれたところ」
「え!?え、大丈夫なの?」
「あ、あぁ…
親父が言うには貧血だと思うって。
少し横になれば大丈夫って言ってたけど
ただ、BGMがないからなんか寂しいなって」
「あ、そっか…」
せっかくのパーティーなのにな…
この人の多さにBGMなしだと、ひたすらざわざわしてるだけに見えた。
「…私、ちょっと行ってくる」
「え?え、どこに?」
「ん?バイオリン!弾いてくるんだよ!」
「え!?」
伊織くんの驚いた声なんかスルーして、私は前へと歩き出した。