片想いイズム


だから私のファーストキスを奪っておいて、死ぬほどドキドキさせといて平然と『教科書、見せて』なんて本当に信じられない。


「木崎。62ページだって」

シャーペンを持ったまま黒板の文字を一文字も写してないくせに教科書はめくれって言う。

ていうか、自分でめくれ。

むしろ貸してあげてるんだからそこはやってくれてもいいんじゃないかな。心の中でブツブツと文句を言いながら、私は次のページを開く。

ああ、また肩が当たった。

そこから園田の体温が伝わってきて熱い。


ここでパタパタと扇ぐのは恥ずかしいな。園田に「なに?暑いの?」とか言われそう。今日は涼しいのに。


「1学期で寿退社するんだって」

さっきの〝62ページだって〟と同じトーンで。
園田は片ひじをつきながら私に言う。

本当にズルいよね。

せめて主語を入れようよ。ってかなんの前触れもなさすぎだよ。

だから聞き流されても文句は言えないよ。むしろ独り言なのか、私に向けて言ったのかさえもよく分からない。

分からないよ。まだ、園田のことはなにも。
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