社長、僭越ながら申し上げます!
尊敬する人
次の日、私がいつも通り早く起きると

ダイニングで湊さんが珈琲を飲んでいた

「おはようございます湊さん」

「おはよう乃菊……有り難う、旨かったよ」

声を掛けると湊さんがスプーンを持ち上げた

「あ……召し上がったんですね?」

ポトフをスープ皿に入れて食べていたたようだ

「うん、もしかして昨夜オレのために作ってくれた?すげえ優しくて……幸せな味だったよ」

「……勝手な真似をして申し訳ありません……
でも、社長お疲れのようでしたから」

様子を伺うと今朝は顔色も良いようで安堵する

「いや、ホントに嬉しいよ……有り難う
ちょっとさ……新婚気分だねコレ…」

湊さんがお皿を下げながら恥ずかしそうに言う

「え?だ、ダメですよ私なんかと!冗談でもダメですよ」

「なぜ?」

「なぜって……湊さんは然るべき方とお付き合いされるのが当然です

社長なんだから付き合う方も、ましてや
結婚相手なんてしっかり選ばなくては

「オレは好きな人と付き合いたいし
嫁さんくらい好きな人がいい……乃菊」

湊さんが私に近づくと左手を持ち上げられた

「は……はい…」

「オレは乃菊が好きなの。乃菊は自分が思うより
ずっと、ずっーと素晴らしい女性だよ
私なんかなんて言うなよ…」

そのまま手の甲にキスをされる

「ヒッ……」

睫毛がびっしり生えた大きな猫目を真っ直ぐに向けて、恭しく手を持ち上げ

「好きだよ…」

なんて綺麗な唇で紡ぐものだから
王子様にしか見えなかった

(ひー!リアル王子様!!!)

「乃菊はオレが嫌い?」

「嫌いでも好きでもないです……」

考えたがイケメンで社長で仕事もできて
社員のことも考えてくれる社長…

素敵な人だとは思うけれど

……『好き』ではない気がする

「え?!」

「強いて言うなら……尊敬する方、です」

そこは間違いなかったので自信をもってそのように答えると

湊さんは酷く悲しそうな顔をして俯く

「マジか…」

でもすぐに顔を上げて叫んだ

「よし、好きにさせる!好きになって貰う!
もう絶対!!」

キラキラとした目は素敵だけど

私はこの人には恋しないだろうなって思った

そう、恋してはいけないのだ……




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