fragment
大学最後の夏休みをこんな所で消化していて良いものか悩んだが、これはこれで有意義な過ごし方だと思い直したのは、久々に感じたこの空気のおかげだろう。

もしかしたら海の色は昔に比べれば青さが減ったかもしれないし、空き家が多くなったかもしれない。だけど整備されていない砂利道は今も健在で、広い空は広いまま。埃の被る駄菓子が並ぶ商店も健在だ。


記憶を頼りに着いた松ヶ原邸の高過ぎる門を通り過ぎると何か、小さな光が左隅の視界に入った。

「うっわ」

蛍だ。

庭にある池の周りを飛び交う光に、目を奪われる。

昔は頻繁に見れたと聞いていたし、実際アルバムの中の写真には蛍の光と一緒に写る自分がいるけど、それが今もいるのかと自分の目を疑い始める。

そうか。蛍の光も健在か。
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