気まぐれ猫くんの手懐け方

数学が始まる前。

猫くんが私に言った言葉。


「ね、教科書忘れたから見して?」


首を傾げて、かわいく笑ってそう言ってきた猫くん。

絶対嘘だ。

その笑顔を見て瞬時にそう思ったけれど。


私がうなずくことも、「わかった」と承諾することより早く


自分の机をよいしょと持ち上げ、私の机にくっつけてきて「よろしく、陽愛チャン」なんて言うから。


私はうつむいたまま、教科書を二人の机が接しているところにそっと置いたんだ。


「……」


いつもよりも近い猫くんとの距離にドキドキしてしまって

授業の内容が全く頭に入ってこない。


気にしないようにしなきゃって自分に言い聞かせるほど、気になってしまう。

意識しないようにしている時点で、もう猫くんのことを気にしてしまっているんだもん。


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