私の大好きな名前
と、私の耳に、とても懐かしい声が聞こえた。
「えっ!」
振り向くと、私の目に光君の姿が映った。空から真っ白な雪がパラパラと降っており、彼の姿ははっきりと見えない。が、
ーーーーーーこの光景、全てが懐かしく感じる。確か、あのときも冬の寒い季節だったような………
忘れていた私の大切な記憶が、思い出しそうになる。
「お前さぁ、やっぱり俺との約束忘れてんじゃねーか?」
とても懐かしい声と匂いが、私に近づいてくるのを体全身で感じた。
「な、なんのことですか?」
私はかじかんだ白い小さな手をこすり合わせて、なぜか敬語で言った。その瞬間、私の口から白い息が出る。
「お前、彼氏の名前忘れるとか、彼女失格な。」
「えっ!」
まだ告白もしてないのに、彼から彼女と言われた。理由は分からないが、彼といると、とても懐かしい感じがする。
ーーーーーーでも、思い出せない。私の大好きだった人の名前が、思い出せない。
「まだ、告白もしてないのに………」
いつもの間にか、私は涙声になっていた。
「そんなにとぼけると、理沙と付き合うぞ。俺は昔から、お前が大好きだったのに………」
そう言って彼は、私の額を人差し指でつんと突いた。
ーーーーーー思い出せない。私の大好きだった人の名前。誰?誰だっけ………?
私は苦しくて、彼に泣きすがる。
「由美、寒いだろ。どこにいても、これで俺たちは一緒だ。」
彼はどこかで聞いたことがあるような言葉を、私に優しく口調で言った。彼の手を見た瞬間、忘れていた私の記憶が全て思い出した。
「ひーちゃん。ひーちゃんだったんだね。うれしい………」
「やっと思い出したか。遅いんだよ。」
忘れていた、私の大好きな名前。大好きだった光は両手に二人の思い出の赤い手袋をはめて、私の白くて小さな手をぎゅっと温かく握った。

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