愛すべき、藤井。
少し先を歩いてた藤井が、ゆっくり私を振り返る。夕日に照らされた藤井も、海と一緒にピンク色に染まっていた。
「夏乃がいるから、今の俺があるわ」
真っ直ぐ私を見据えて、すげぇ良い顔して笑うんだもん。一瞬、どうしようか迷ったよ、藤井。
危うく……グッと呑み込んでしまうところだった。
だけど、藤井。……お前、あんまりふざけんなよ?やっぱ、言わないなんて私には無理だ。
せっかく感動的なシーンだったのに、
「ねぇ、藤井」
「あ?」
「鼻くそついてるよ」
「は?……ちょ、どこ、取って」
なんで鼻くそついてんの?なんで今のタイミング?狙ってんの?それ。嫌がらせかなんか?
チャック開けてたり、鼻くそつけてたり。
少女マンガとか、恋愛小説とか、胸キュンドラマのヒーローなら、絶対にやらないであろうミステイクを、お前はあと何個繰り広げたら気が済むんだ。
「やだわ、汚い」
……そんな藤井を可愛いと思う私って、
ただならぬ母性に溢れてると思う。