愛すべき、藤井。


***


昼休みが終わり、LHRの時間がやって来た。


議題は文化祭の演劇について。

もちろん、先生は「シンデレラに決めた!」と張り切っていて、それに対するみんなの「えぇ〜」って言葉に「優勝目指してんだよ!!」と、熱血ぶりまで発揮してくれている。


先生、冷静に考えて。
藤井のシンデレラで優勝なんて……無謀。


「ふぅ」


未だにあーでもない、こーでもないと熱弁する先生を横目に、私はやっぱり藤井の背中を見つめている。


少し猫背っぽい背中とか、シャーペンを回す指先とか、机の下でクロスしてる足とか。


なんで藤井なら全部、好きだなって思うんだろう。


寝癖ついてるし、ワイシャツの下に着てるTシャツ透けてるし、


……って、ちょっと待って。Tシャツに

『I feel happiness when I eat a potato.』

って書いてない?いや、書いてるわ。完全に、私はじゃがいもを食べると幸せを感じます。って大々的にお知らせしてやがるわ。


「アホ過ぎだろ、藤井」


じゃがいも……ぶふっ

あまりの衝撃に口元が自然と緩む。ダメだ、本物だわ、藤井。お前のアホ加減……本物だわ。



「ふ、くくっ……」


授業中だってのに声を殺せずに笑ってしまう私を、もちろん脳内シンデレラ一色の先生は見逃さなかった。


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