愛すべき、藤井。
「藤井、本気?」
「なに、嫌かよ」
「嫌だよ!なんでよ!」
「なんでって、なんだよ」
「いや、だからなんでわざわざ立候補してんの?」
「そんなの、俺の勝手じゃん」
いや、勝手じゃないよ。
生憎、シンデレラをやることにたったさっき決まりましてね?
「いや、意味わかんない」
「こっちのセリフだわ」
やっぱり少しだけ不機嫌な藤井に、本気で喧嘩を売りにいけない私はチキンなのかもしれない。
たかが藤井相手に、何をそんなに躊躇っているのか謎なレベルで、私の口から出るのは弱々しい言葉の数々。
「いや、だってシンデレラ私だよ?」
「…………ん」
「ちょっと待ってよ、そんなに演劇したかったならシンデレラ譲るって本当」
わざわざ王子役なんて、藤井がやったら全校から反感買うような役を買って出なくても、1番美味しいところ譲るってば!
そう思いながら「ね?」と私が首を傾げた時、
「息もピッタリ、決まりだな!伊藤はクラス推薦でシンデレラ。藤井は立候補で王子様。優勝はお前ら2人の腕にかかってるぞぅ!!」
先生の声が私の鼓膜を震わせた。
───パチパチパチパチパチパチ
再びどこからともなく拍手が鳴り響き、私と藤井の名前が黒板に書かれていく。
……こんなはずじゃなかったのに。
藤井は本当に何を考えてるのかサッパリ分かんない。
だけど、これで文化祭準備期間もずっと一緒にいれるかな……なんて思ってる私がいる。