愛すべき、藤井。


「ない……んじゃない?」

「そうなの?」

「だって、シンデレラって白雪姫みたいに王子様のキスで目覚めるとかじゃないし、人魚姫みたいに王子とキスしなきゃ泡になって消えるってミッションが課せられてるわけでもないし……ガラスの靴1つで全部解決するよね?」

「いや、俺実はなーんも知らねぇ」

「そうだろうな。てか、知ってたらそれはそれでキモいよ」

「じゃあ、とりあえずあれだ。俺らにキスシーンはないってことだよな?」


ドキドキしてる私とは打って変わって、どこか安心したような藤井の顔に少し怒りが込み上げてくる。


分かってる!!
分かってるよ、ちゃんと。

藤井は私が好きじゃないんだし、それに私と藤井の関係的にキスシーンはキツイだろうし。


ホッとする気持ちはよく分かるんだよ。


でもさ、なんでか胸がズキッとして、


「だね。良かったよ、藤井とのキスシーンとかギャグ過ぎだし。ってか、藤井がキスとか想像出来ないし、絶対笑っちゃうもんね」


私はまた可愛くない言葉で、思ってもないことをサラサラと吐き捨てて、


何も言い返してこない藤井に胸がザワつく。


ほら、また言った後で……後悔してる。
私って性格悪い。


自分勝手な感情を慰めるために、身勝手な言葉で藤井を傷つけることを何とも思ってないんだから。


いつも、後悔するのは言った後。
後の祭りだ。

< 115 / 280 >

この作品をシェア

pagetop