愛すべき、藤井。
今更、本当はそんなこと思ってないよ……なんて言ってみたところで、藤井に言ってしまった言葉が消せるわけじゃないし
藤井は何かしら嫌な思いをしただろうから
……やっぱり、後の祭りだ。
「お前さ」
「……っ」
やっと口を開いた藤井は無表情で、それだけで今の私は胸が痛くて仕方ない。なんて言われるんだろうって考えただけで……呼吸が苦しい。
「俺のこと好きって言っといて、立花と楽しそうに電話してるし、俺に向かって平気でキモいとか言うし、俺が王子役に決まっても嬉しそうな顔一つしねぇし、挙句、俺とのキスシーンは想像出来ねぇとか言うしさ」
「……藤井……?」
怒ってる?
ううん、怒ってるとも違う。
雰囲気はいつも通り、アホ極まりない藤井のままだ。
「お前、本当に俺のこと好きなの?」
「……っ」
ジリジリと詰め寄られて、チャリに跨ったままの私は身動きが取れない。ハンドルを握りしめる手に自然と力が入って、
口の中から水分は消えた。
見上げる藤井の顔が、目と鼻の先にあるからもう声は出せそうにない。