愛すべき、藤井。
『普段よりちょっとマシじゃん』程度なんだろうけど、私の心は分かりやすく弾む。
こういう小さなトキメキが散り積もって山となった結果、私は藤井が好きなんだと思う。
ドッカーーン!と大きなキュンこそ放り込んでくれないけれど、無自覚でたまに放り込む小さなキュン一つ一つに、私は敏感に反応してしまうのだ。
「で?用事があったんじゃないの?」
ムスッと口を尖らせる私に、多分本当に悪気があった訳じゃない藤井は、どうしたら私の機嫌が直るのか考えているのが分かりやすく見て取れる。
「あ……いや、今日から演劇の練習を放課後にやるって先生が言ってたから知らせに来たんだよ」
「……ゲッ、ついに始まるのかー。憂鬱」
演劇でやるシンデレラの脚本はもう貰っている。中を読んだら何ともコメディ化されていて、ほとんどラブとはかけ離れていた。
王子様役が藤井ってのもあるんだろうけど。
どうせなら、もっと役の中だけでもラブが欲しかったな〜とか思うのは欲張りなのかな。
「だから、帰り……」
───ブブッ ブブッ ブブッ
藤井が何が言いかけたその時、机の上に置かれていた私のスマホが、まるでそれを遮るように着信を知らせた。