愛すべき、藤井。
って言っても、鈍ちん藤井のことだから、私が藤井離れしようとしてることにすら気づかない可能性があるけど。いや、むしろ絶対気づかないと思うけど。
それでもこのまま藤井のそばで報われない片思いしてるよりもずっと、自分のために……藤井のためにもなるんじゃないかな。
あんなアホでどうしようもない藤井にうっかり恋してる女の子がいるかもしれないし。私と登下校が一緒じゃなかったら声掛けやすいかもしれないし。もしかしたら、その子は藤井のドストライクゾーンかもしれないし……?
とか考えるとかなりきついけど、実際にあのアホな藤井でも1年の女子からは結構慕われてたりするし、あながち無くもない話なんだよね。
それでも、藤井が鈍いのも相まって、彼女ができることってなかったし、藤井の1番近くにいるのはいつも私だったから……だから、ほら、ちょっとだけ期待する自分がいなかったわけじゃない。
……実際は全然、眼中になかったんだけどさ。笑えるくらいに。
「あれ、そう言えば藤井。さっき帰りがどうとか言いかけなかった?」
電話が鳴る前、藤井は確かに
『だから、帰り……』
私に何かを言いかけていた気がする。
「別に?なんでもねぇよ」
今更気になって藤井を見つめてみたけれど、やっぱりどことなく不機嫌なままの藤井は、私を突き放すみたいにちょっぴり冷たく言葉を吐き出した。