愛すべき、藤井。
***



「ふーじーいー」

「おー」


放課後、それは長い長い授業を乗り越えた後に待っている、1日の中で私が1番待ち望んでいる時間だったりする。


「今日は藤井がこいでよ」

「んーや、ジャンケンだろ」

「いっつもそれじゃん!」

「勝てばいいだけの話だろ、ほら、最初はグー!ジャンケンッ」


「ホイッ」なんて間抜けな掛け声と共に、ついつい藤井のペースにのまれてチョキを出してしまった私に


「はい、今日は夏乃がこぎ〜!俺、後ろで監督」

「今日"も"でしょ!なんで無駄にジャンケンだけは強いわけ?卑怯だぞこの野郎」


しかも『後ろで監督』ってなんだよ。
なにを監督するんだよ、お前は!!


「まぁまぁ。そろそろ文句言う頃だろうと思ってたよ。そんな夏乃にビックニュース!」

「なによ、ビックニュースって」


2人並んで階段を駆け下り、生徒玄関で靴を履き替える。これが毎日の繰り返し。

今更 藤井と一緒に帰らないなんてありえないって言うか、この時間だけは絶対に失いたくないって言うか。


……唯一、私と藤井2人だけの時間だから。


藤井にとっては、本当になんてことない友達との下校時間で、早く家に帰ってご飯食べたいな〜とか考えてるのかもしれないけど、私は毎日チャリの速度を出来るだけゆっくりにキープして「まだ着くな〜」ってわがままな感情を抱えながら帰っている。

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