愛すべき、藤井。


てっきりデザイナーさんかと思っていたけど、聞いた話によれば『ただの趣味』らしく。作っても来てくれる人がいないから困っていたとか。


『作るだけで着る趣味はないんだって』と、うめが教えてくれたけど、かなりの出来だから、デザイナーとか始めたらいいと思う。



「おい、そこのお前も履いてみせろ」


───ドキッ


頭の中で余計なことに思考を巡らせていた私は、藤井のセリフに心臓が跳ねた。


もう出番が来てしまった。
ここまで来たら逃げられない、そう分かっているのに口の中の水分は一気に消えて、


「……はい」



上手く喋れる自信がこれっぽっちもない。声が震える!!!!


静かに近寄ってくる藤井に、ステージから逃亡したい気持ちを必死に堪え、


床に置かれたカボチャの靴へと足を滑らせる。



───ズポッ



何とも可愛らしくないカボチャの靴は、安定の緩さで私の足を受け止め、


「……やっと見つけた」


次の瞬間、王子様を全うする藤井と見つめ合う。

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