愛すべき、藤井。


「王子様、ずっと……会いたかったです。

舞踏会の日に食べた、ミートパイの味が忘れられず、日々恋しく想っておりました」


「ミートパイかよ!!」


「それだけではありません。

もちろん、ビーフストロガノフやバジルのパスタ、プチトマトで作られたミニ薔薇も可愛くて忘れられません!」


「全部食い物だろそれ。俺との記憶どこやった」



─────ギャハハハハ


客席から沸くのは楽しそうな笑い声。


あぁ、おかしいな。
これはシンデレラのはずなのに。


俺様な王子様と、食い意地張ったシンデレラ。こんなシンデレラがあっていいのだろうか?……いや、カボチャの靴な時点で諦める必要ありだけど。


「でも、やっぱり1番は、王子様……あなたへの想いを私は忘れることが出来ませんでした」

「っ……」


一瞬見開かれた藤井の目。



それもそのはず。



だって、これは



「どんなに他に目を向ける努力をしても、どんなに考えないようにしても……


やっぱり、私にはあなたしか見えません」



全部、私のアドリブなんだから。
藤井を困らせたいがためだけに、ひっそり練習した……言うなれば最後の足掻き。
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