愛すべき、藤井。




私ばっかり……結局、こんな鈍感バカ野郎に私ばっかりドキドキさせられている。


───キャーーーー!!!!


沸き上がる客席。

どこまでも上がっていく私の体温。


私から少し距離を取った藤井が、ベッと舌を出して私にしか聞こえない声で


「消毒」


なんて呟くから、私は何が何だかさっぱり分からなくて、ただ藤井を見上げて瞬きを繰り返してしまう。



「……しょ……ど、く?」

「昨日のアレ……ムカついたから上書き」

「……っ!」


それって。

それってそれって立花くんからの、帰り際のあのデコチューのことって解釈していいの??


ムカついたって、何で?
ねぇ、藤井それってさ……


「今度こそ、俺のものになれ。一生、傍にいろ」


すぐに次のセリフを口にしてしまった藤井に、



私は聞けなかった。


それってヤキモチ……?って。
私と立花くんにヤキモチ妬いてくれたの?って。



「はい、喜んで」



客席からの拍手喝采で演劇は大成功で幕を閉じた。ホッと胸を撫で下ろす暇もないほどに、私は今……藤井の言った言葉の意味を探してる。


『昨日のアレ……ムカついたから上書き』


耳に残る藤井の少し不機嫌そうな声と、額に触れた藤井の唇の感触が、



「藤井のバカッ」



どこまでも私の体を火照らせていく。
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