愛すべき、藤井。
そもそも、藤井のチャリなのに。私がいつも藤井を家まで送って、自分の家に乗って帰るってのも変な話だよ、藤井。

てか、女に送ってもらう男なんてお前くらいだよ、藤井。


「駅前に新しくオープンしたパン屋のクロワッサンがマジうまいらしいんだよ、これが」

「え!!駅前に新しくパン屋さん出来たの?まじかよ!胸アツ!しかも……クロワッサン!」


大好きなクロワッサンの話に私の心は弾む。


「な?ビックニュースだろ?しかもそのパン屋がなんと、俺の親戚の店でさ!」

「えー!!!なにそれ、すごい!!」

チャリ置き場まで着いた私と藤井は、当たり前みたいに2ケツして校門までの道を走るけど、他の生徒達が気にするそぶりはない。


冷やかしを受けるどころか「あー、いつもの2人ね」程度の眼差し。いっそのこと、周りがもっと冷やかしてさえくれれば、藤井だって私が女だってことをもっと意識してくれるんじゃないかと思うわけ。


「さらに!ここからが重要だから、耳の穴かっぽじってよーく聞けよ、夏乃」

「おっけ!今かっぽじるからちょっと待って!」


チャリから片手を離して、軽く耳の穴に指を突っ込んだ私の背中を、藤井が軽くバシッと叩いた。


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