愛すべき、藤井。


「おー、さすが藤井。ならお釣りは200円だな」

「は?400円だろ」

「伊藤と、うめ姐さんと、藤井。そんで俺の分だからお釣りは200円」

「おっま!さり気なく俺の金で自分の買う気かよ!」

「ゴチになります」


楽しそうに笑う神田くんと、あーだこーだと文句を言う藤井。こんな時間がやっぱりすごく好きで、楽しいなぁって……友達っていいなぁって思う。


にしても、藤井に買ってもらった焼きそばとか、勿体なくて食べられないよ。


……って、今のはさすがに乙女すぎか。



タイミング良く登場した午後担当に「後よろしく」と告げ、交代した神田くんを加えて


どこかゆっくり食べれる場所を探そうと歩き出した私たち。



「ねぇ、藤井」

「ん?」

「今日、打ち上げしようよ。みんなで」

「あー、ありだな。カラオケ行くか」


隣を歩く藤井とそんな話をしながら、もう既に頭の中は何歌おうかな〜ってことに思考を巡らせていた私は能天気すぎた。


次の瞬間、聞こえてきた声に


「……絢斗くん??」

「……っ!香織?」



私は背筋が凍った気がした。
藤井のことを下の名前で呼ぶ子を、初めて見た。


反対に、藤井が女の子を下の名前で呼ぶの、私以外で初めて聞いた。



胸がざわついて、嫌な予感がする。どうしようもなくモヤモヤして、息するのも苦しい。


───ドクン……ドクン……


ねぇ、藤井。
こっち向いて。


なぜか分からないけど、そんなことを思った。
その子を見ないでって。


私、嫉妬してる。
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