愛すべき、藤井。
「おう。楽しくやってるよ。俺も会えてよかった」
藤井が笑う。
見たこないくらい、優しく……真っ直ぐ彼女だけを見つめて。
やめて。見ないで。
こっち向いて、藤井。
また、そんな私の勝手な思いが私自身を苦しめる。
「よかった……。あ、私ね!高校入ってやっと携帯買ってもらえて!よかったら連絡先交換したいな」
ガサガサと持っていたバッグから、何やらスマホを探しているらしい彼女は、やっぱり可愛い。
そんな彼女を見つめる藤井は、やっぱり優しくて。
嫌でも気付いてしまう。
……きっと、藤井は転校してくる前の学校で、彼女と一緒だったんだろうなって。
そんで、きっと。
好きだったんだろうな……って。
それは藤井だけじゃなくて、彼女も。
……両思いのまま、想いを伝え会えないまま藤井が転校しちゃったんじゃないかなって……。
連絡先を交換した2人は名残惜しそうに見つめあって「また夜、連絡するね」と言う香織ちゃんの言葉に「おう」と短く答えて藤井が手を振った。
背を向けた香織ちゃんの背中を、それでも見つめ続けて、まるで壊れたロボットみたいに固まってしまった藤井が振り向く前に……
私は笑顔を作るんだ。