愛すべき、藤井。


「でもさ、」

「……うん?」


まだ続くのか。

そんなことを思ってしまうのは、やっぱり藤井の口から『香織』を聞くのが怖いからで、自分でも気付かないうちに、藤井の声にほんの少し身構えた。



「……何でか分かんねぇけどさ」

「うん……?」


夢中で熱唱する神田くんと、合いの手を入れ続けるうめに視線を向けながら、この曲は一体、あとどれくらい続くんだろう……とぼんやり考える。


でも、2人とも本当に楽しそう。



「香織から連絡来た時より、高峯から連絡来た時より……何でか分かんねぇけど



それ聞いた夏乃が、ちょっとムッとしたことを嬉しいって思った」




うるさいカラオケルーム。
響き渡る、とても上手いとは言えない神田くんの歌声と、喉が枯れるんじゃないの?ってくらい声を張り上げて合いの手を入れるうめ。


聞き間違いかと思ったの。


きっと、周りの音が私の耳をバカにしたんだって。だって藤井の口から出た言葉は、



「……は?ちょ、何で叩くんだよ」

「本当むかつく、何なのお前」

「俺はせっかく、素直に言ったのに!お前が分かりやすく不機嫌になったからちょっとでも安心させようと……」


藤井はズルイ。


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