愛すべき、藤井。



迷わずお店に入ろうとした私は、店内に見覚えのある女の子を見つけて、1歩後ずさる。



───『香織』



脳内で藤井の声が勝手に再生されて、またギュッと胸が傷んだ。


入口近くで何やら商品を物色しているらしい香織ちゃんは、もちろん私なんかに気づくわけもなく、ルンルンと音符を身にまといながら、可愛い雑貨へと視線を向けている。


……そっか。


こういう可愛いお店には、香織ちゃんみたいな子が来るのか。うっかりもう少しで来店しちゃうとこだったよ。


いっけない。



……古文のノートは、近所の古い本屋さんの一角にひっそり鉛筆のキャップや、消しゴム、定規なんかと一緒に売られている、少し古臭い匂いのするノートを今度買いに行こう。


愛読してるマンガの最新刊が近々出るはずだし、それも合わせて買おう。



古い本屋さんだけど、お店のおばさんとも顔見知りだし、とても気前のいい、笑顔の優しい人……。



そこまで考えて、
あー、私にはあっちの方が合ってるな!


そう自分に言い聞かせている自分に、苦笑いを零す。



───バチッ


一瞬、香織ちゃんと目があって、私は慌てて来た道を戻ろうと足を動かした。


私のバカ!そりゃいつまでも視線送ってたら、気づかれたっておかしくないじゃん。


……あ、でもそっか。
私は香織ちゃんを知ってるけど、香織ちゃんは私を知らないじゃん。


私が一方的に知っているだけで、香織ちゃんからしたら私なんてアウトオブザ眼中。



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