愛すべき、藤井。


「……ごめん、用事があってかけたんだけど、でも用事ってほどのことでもなくて、あの」

『俺さ〜。夏乃に「何してた?」って聞かれたとき、心臓止まりかけた』

「……え?」


私の言葉はまるで無視して、藤井が話題を変えるから私は反射的に聞き返した。


『ちょうど、夏乃のこと考えてたから』




〜〜〜〜っ!!!!

ドキドキ、ドキドキ。

苦しいくらいに、加速しては私の呼吸を乱す胸に、立ち止まり手を当てて深く息を吐く。


「……藤井の方こそ、心臓に悪いっつーの」

『は?なんで?』

「……藤井、ごめんね」

『は?なんで?』

「今日ね、香織ちゃんに会ったよ」

『は?なんで?』


さっきから同じことしか言わない藤井に、おかしくなって思わず吹き出した。


九官鳥でもレパートリーもっと豊富だからね。


「多分……ばったり会った?のかな。ファミレスでさっきまでパフェ食べてたんだ〜」


私の曖昧な返事に意味わかんねぇとボヤいた藤井が『じゃあまだ外だろ?』と続けて、


「うん、今帰りだよ?」


あと少しで、いつも藤井とチャリ乗って騒いでた通りに出るよ。

そしたら、いつも『また明日』って別れてたそれぞれの家に続く交差点が見えてきて……



『……交差点まで出たら、会えたりする?』



少しかすれた声で、まるで『会いたい』って言われたような錯覚に陥る。


ぎゅぅうって、心臓を鷲掴みにされた気分だ。



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