愛すべき、藤井。
……もしかして、外にいるの?
そう聞こうと口を開いた私は、少し先に見えてきた交差点に見覚えのある人影を見つけて立ち止まった。
「……藤井?藤井が見える」
『あ?……ドッペルゲンガーじゃね?』
「じゃあ藤井今すぐ交差点に来て」
『なんで?』
「ドッペルゲンガーを見たら死ぬって言うじゃん?」
「『殺す気かよ』」
目の前にいる藤井の声と、受話器越しの藤井の声が、同時に私の耳に届いた。
「……っ」
目の前に藤井がいる。
つい最近まではあんなに当たり前だったその光景に、今はこんなにも泣きそうになっている。
私、思ってたよりもずっと寂しかったみたい。
藤井に会いたくて、藤井と放課後帰りたくて、必死に強がって避けてたみたい。
「ごめんね、藤井。勝手に香織ちゃんに嫉妬して、藤井のこと避けててごめん」
緩い部屋着姿。
お風呂上がりなのか、少しだけ濡れてるようにも見える藤井の黒髪。
───グイッ
スポッと音を立てて、まるで磁石に引き寄せられたかのように藤井の腕の中に閉じ込められた私は、一瞬目を見開いて、だけどすぐに目を閉じた。
ここぞとばかりにギュッと抱きついて、シャンプーの匂いが香る藤井の胸におでこをくっつければ、
「……簡単に抱きしめられてんじゃねぇよ」
自分で私の腕を引いて、この状況を作った張本人が頭上で何やら文句を零した。