愛すべき、藤井。


ちょっと鈍くて。

ちょっとアホで。


その二つが相まってイライラする。


ちょっと残念な男の子なだけ。
だけどもっと残念なのは、そんな藤井を誰よりも愛しいと思ってしまう少女Nだ。



「いいよ、もう」

「なにが?」

「諦めるとか、忘れるとか、避けるとか、そう言うの全部。俺から夏乃が離れてく理由になるもの全部、いらねぇ」

「意味わかんない」

「俺も分かんない」

「もっと意味わかんない」

「……つまりは、夏乃はそのままでいいってことだよ。俺が変わるから、夏乃はそのままでいい」



……いつも単純な藤井の言葉はすぐに分かるのに、今日はなにを思ってこんなことを言うのか、サッパリ分からなかった。



相変わらず抱きしめられてるし、藤井の心臓の音が私と同じでちょっと嬉しいし、藤井の匂いが好きすぎて、必要以上に呼吸を繰り返してるし、


「夏乃」

「なに?」

「俺、夏乃のこと大事だよ」



よく分からない。
藤井の言葉は、相変わらず私の心臓をバクバクさせるけど、その言葉の重みがどれくらいのものなのか、喜んでいいのか、悪いのか。

何一つ分からないけど、


「ありがと」



大事に思ってもらえてる、そんな今のままで十分しあわせだって、そう思った。

私も、藤井が大事だよ。仲直りの印に、今度じゃがいもプレゼントするね。

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